冒頭の写真はそらなさゆり(Twitter)様からお借りした『クロムツ』です…大きいですね!こちらは釣りに関係する楽しい情報をツイッター、インスタグラム、YouTube等で配信されています。釣り好きの方は一度訪れてみてはいかがでしょうか?
写真のクロムツを初めとし、本ムツ、アカムツ、シロムツ、ギンムツ等々「ムツ」と付くお魚をよく目にしませんか?
大型のものは超高級魚として扱われる一方で、スーパーなどでは銀ムツ(メロ)の漬け魚が安価で提供されたりもしています。
これらはみな同じ種類で色の違いを分かり易く命名しているだけなのでしょうか?
ということで、今回は「ムツ」が付いて商品化されているお魚を中心にご紹介します!
① ムツとは?特徴【共通点と相違点】と【名前の由来】
まずは、「ムツ」が付く名前の代表格からのご紹介です。青太文字が正式名称で、その他は通称または商品名を表しています。また、銀ムツ(メロ)以外の生息域は日本国周辺のみに限定してのご紹介です。
比較してみると、ムツ科に属するのは「ムツ」と「クロムツ」の2種のみで、その他の「ムツ」は別種だということが理解できますね。
・「ムツ」名前の由来とムツ科以外のご紹介
では、なぜ種類が異なるお魚なのに「ムツ」が付いているのでしょうか?
●脂っこいことを「むつっこい」、「むつこい」、「むっちり」などという方言に由来しているとされています。まずは、こういった同じような特徴を名称に表したことが伺えますね?
オオメハタ(通称シロムツ)は、6種の中では一番小ぶり。旬は秋から春にかけてで、主な産地は静岡県、愛知県、三重県、愛知県、鹿児島県などに限られています。現地では魚屋さんやスーパーで「釣り物」としても消費されています。
新鮮なものは刺身や炙りで頂くことができます。脂がしっかりと乗っていて、甘みが口の中でとろける美味しさと評判です。お値段も手ごろなことから、現地では人気のお魚となっています。
スーパーなどで見かける外国産の通称「銀ムツ」は、2003(平成15)年にJAS法が改訂され、「銀ムツ」という名前での販売が禁止されました。ただし「銀ムツ(メロ)」などの表記は可能となっているため、同様の表示を多く見かけますよね?
マジェランアイナメの旬は不明ですが、銀ダラの代用品として1980(昭和55)年代から輸入され始め、漁獲国の一つであるチリでは本種を「メロ」と呼んでいたことから、日本でもこの名前で流通するようになりました。
商品は全てが切り身の状態ですので、本来の姿を見かけることはありませんが、何と言ってもお値段が手頃なことと芳醇な脂の乗りから人気商品となっています。
アカムツの旬は秋から春にかけてと言われていますが、年間を通して味落ちしないところに特徴があります。
こちらもムツ科とは異なる別種のお魚ですが、こちらはノドグロとしての別称で(本来はアカムツを指す固有名詞ではないのですが…)、今では立派な超高級魚としての立ち位置を確立しています。
釣りで捕獲されたものはキロ当たり1万円を超えることも珍しくありません。よって、こういったもので作られた干物も超高級品となっています。

「白身のトロ」として高級魚扱いになった銀ダラが「タラ科」でないように、同じ高級魚として扱われるクロムツにあやかって脂の乗った似たような種類に「ムツ」をつけたのも納得できますね?
② ムツの安全性は?
さて、ここからは「ムツ魚」の安全性の観点から比較してみることにします。
1. ムツにもアニサキス(寄生虫)はいるの?
魚種 | 検査魚体数 | 検出魚体数 | 寄生数 |
---|---|---|---|
アカムツ | 13 | 5 | 21 |
クロムツ | 32 | 4 | 18 |
以上のように、高い確率でアニサキスの存在が確認されています。
釣りなどで入手したものを「生」で食す場合は、被害にあわないためにも次の記事をご参考下さい。
2. 妊婦さんが気をつけたい「水銀量」
お魚には豊富な栄養素が含まれており、魚中心の食生活が健康に良いことは科学的に証明されています。ただし、全くの無害かと言いますと、万全でないことも証明済みです。
特に、妊娠中の方を対象とした『これからママになるあなたへ』が、厚生労働省から発表されていますので、気になる方はぜひご一読をお勧めします。
ここで問題としているのは魚に含まれる水銀量についてです。この中で、クロムツが2010(平成22)年に新たに加わっています。

結論として、どんなにお好きな場合でも80gの切り身で換算した場合、多くても週に2切れ以内を推奨しています。どうか、お気をつけください!
③ ムツとクロムツの違いはどこに?
日本大学 生物資源科学部 海洋生物資源科学科 水族生態学研究室では、『中深層性深海魚ムツ・クロムツの再生産機構』という研究報告をされていますので、以下に概要をまとめてみました。
1. ムツとクロムツ【外見編】
この2種はとてもよく似ており、外観で判別するのはほぼ不可能です。
また、市場では「むつ」「黒むつ」などという名前で扱われていますが、これらの市場名は生物学的な名前とは対応していません。若齢で銀白色を呈する小型個体を「むつ」、黒みがかった大型個体を「黒むつ」と呼ぶことが多いようです。
両者の違いは、うろこの枚数において、ムツよりクロムツの方が若干多いという報告もありますが、それぞれ60枚近いこともあり、やはり外観での判別は非現実的ですね。

ここでトリビア!
漁師さん情報として「歯の状態でおおよその違いは分かるよ」とのことです。数は様々ですが、「ムツは隙間なく均等に並んでいる」のに対して「クロムツの方は不均等で隙間がまばらになっている」のだそうです。
もちろんこれが絶対的な違いとは断言できませんが、運よく遭遇した場合にはよく観察してみくださいね!
![]() 歯が均等できれいに並んでいます |
![]() 歯の密集度が薄く、まばらですね |
2. ムツとクロムツ【遺伝子編】
ムツとクロムツについては、その酷似した外観のために、100年を越える研究史の中で同一種ではないかと疑われたこともありました。 日本大学 生物資源科学部 海洋生物資源科学科の糸井 史朗准教授による2008(平成20)年の遺伝子解析調査(右表)によりますと、 両者の塩基配列には明らかな違いがあることが判明しました。 つまり、両者は生物学的に全くの別種だということがここで初めて分かったわけです。 |
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3. ムツとクロムツ【生息域編】
両種の分布域およびクロムツの産卵場と成育場
(ムツの予想される産卵場と生育場は弊社加工)
同研究室のさらなる調査では、クロムツの分布域・産卵場・生育場が上記地図のとおりであることがほぼ判明しました。
ただし、ムツの分布図はほぼ確定できましたが、産卵場と生育場はクロムツの生態を参考にした予想地域ですので、さらなる調査が進められています。

驚くべきことですが、東シナ海縁辺部の漁獲個体から何とムツでもクロムツでもない「第3の個体」が発見されたそうです!今後の研究成果に大いに期待したいですね!
④ ショップの高級魚をご家庭で!
さて、今回の「ムツ特集」はいかがだったでしょうか?深海魚に関する謎は非常に多く残されていますので、各研究機関による調査に期待しましょう!
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